≪Princess Kiira≫  古より代々続くフィンランドの名家、シベリウス家の屋敷には百人を超える使用人が働いている。  コックや庭師、ハウスキーパーに運転手と様々な職種があるが、その全ての使用人の頂点に立つのが、執事である。  中でも執事長ともなれば、主の生活全てを支え全身全霊を賭して仕えなければならない。  このシベリウス家の執事長と、その主の日常を少しだけお見せしましょう。           ■  シベリウス本家の嫡子、キーラ=エミール・アルヴァ・シベリウスの一日はノック音から始まる。  キーラに仕えるシベリウス家の執事長、アキ=アクセリ・パルムグレンは控えめにキーラの寝室のドアをノックして、主の返事を待つ。  いくら仕えている身だとは言え、女性の寝室に無断で這入ることは許されない。 もっとも、キーラは朝方の人間なので、ものの二分程度で「入ってもいいわ」という返事が返ってくる。  アキが中へ入ると、ベッドの天蓋に吊るされたカーテンに長い髪を梳いているシルエットが映っている。 「お早う御座います。お食事の用意が整いましたので、食堂までお願いします」  アキは機械的に朝の挨拶を済ませ、会釈をして部屋を出て行こうとする。  だが、キーラは何が気に喰わなかったのか、カーテンの向こう側から不機嫌さを隠そうともしない声で言った。 「ちょっと。私は寝起きなのよ? 目覚ましに、酸っぱいフルーツの一つも出ないのかしら」 「朝食前ですので、飲食は控えた方が宜しいかと。ご所望でしたら、今からお持ちいたしますが」 「もういいわ。まったく、ホントに使えないわね。着替えるから出て行きなさい」 「畏まりました」  恭しく頭を下げ、部屋を出るアキ。  アキは文句の一つも言わない。これまで優秀な執事を雇って彼女に仕えさせてきたが、半年と保つ者はいなかったほど、キーラはわがままなお嬢様だ。  しかし、アキは彼女に仕えて七ヶ月が経過している。その理由は、彼女のわがままに何一つ文句も言わず完璧にこなす、彼の執事としての能力の高さにある。  その能力は若干二十一歳という年齢で、名家シベリウスの執事長を任されていることで証明されている。  そんな有能なアキも、まだ二十歳にもなってない少女に好き勝手され放題だ。  最近は自分のわがままに嫌な顔一つ見せないアキを良いことに、キーラの“お姫様っぷり”は輪を掛けてひどくなってきていた。 「何よこのメニュー! なんで朝からこんな野菜だの芋だの食べなきゃならないの!?」  食堂に着いて開口一番、キーラはテーブルを指差して言う。シェフや料理を運んできた家政婦も困惑している。  しかしこんなことも日常茶飯事で、アキはさも当然のようにキーラに言った。 「お嬢様。では、何をお召し上がりになられますか」 「そんなこと、いちいち言わないといけないワケ? 冗談じゃないわ」 「柑橘系のフルーツで宜しいでしょうか」 「フルーツはもういいって言ったでしょ。私は甘いものが食べたいの、今すぐによ」 「畏まりました」  アキは会釈をすると、厨房へ向かう。シェフに指示を出して、家政婦に運ばせた。  メニューは、溶かしたチョコにフルーツやチーズなどを付けて食べるショコラフォンデュにした。  今からタルトやマフィンなどを焼いていたら時間が掛かる。その間、キーラを待たせていたらまた機嫌が悪くなってしまうだろう。  テーブルに置いて手早く準備をし、アキは「お食事の準備が整いました」とキーラに言った。 「……早かったのね」 「お待たせして申し訳御座いません」 「いいわ、別に。ふーん、ショコラフォンデュね。これならすぐ出来るし……シェフの案?」 「いえ」 「じゃあ、アキなの?」 「はい。では、ショコラが冷めてしまいますので、そろそろお召し上がり下さい」 「……分かってるわよ」  アキの受け答えが気に喰わなかったのか、また不機嫌な顔したキーラだったが、ショコラフォンデュはお気に召したようで、すぐに機嫌は直った。  シェフ達は毎朝冷や汗をかかされているが、アキにとってはなんでもない、ただの日常の一コマに過ぎない。  キーラは食べ終わった後、アキを呼びつけて言った。 「出掛けるわ。……そうね。乗り物は白馬がいいかしらね」 「畏まりました。運転手はどうしましょうか」 「決まってるでしょ、貴方がやって。ボディガードと荷物持ちも兼任ね」 「畏まりました。では、用意整い次第、お呼び致します」 「待たせるなんて論外だからね」  そう言い捨てて、衣装室へ入っていった。  アキは自室で執事服から、外出用の黒い三つボタンのスーツにスラックス、シワ一つ無い純白のワイシャツ、そして細めの黒いネクタイを締めて、車の準備をする。  メンテナンスは専門職が既にやっているので、玄関先に止めて衣装室へと戻る。  ドアをノックし、返事を待たないでドア越しに言う。 「車の準備が整いました。玄関でお待ちしていますので、用意が出来次第お越し下さい」  すると、中からキーラの声がする。 「待ちなさい。あと五分で済むから、そこで待ってなさい」 「畏まりました」  アキはドアの横に立ち、ポケットから腕時計を取り出して右手首に付ける。彼は左利きである。  現在、午後九時半。彼は内ポケットから小さな鏡を出して、身嗜みが整っているか確認する。  流れる柳眉、前髪が多少長めのショートレイヤー、栗毛色(ブリュネット)の髪色、深いグレーの瞳。一つ一つ確認して、鏡を仕舞う。  ついでにエチケットブラシで背広をブラッシングして、キーラを待った。  ほどなくして、私服に着替えたキーラが出てきた。  服もアクセサリも全てブランド物で庶民とはそもそも格が違うのだが、それを当然のように着こなしているキーラの生まれついての“お姫様気質”も他の追随を許さない。 「行くわよ。今日はたくさん買いたいものがあるの」 「畏まりました」  玄関を出ると、白塗りのフェラーリが止まっている。ヴァルメット社へ特別注文して造らせた、フェラーリのストレッチ・リムジンである。 「……白馬?」 「白い跳ね馬です」 「…………。」 「では、どうぞ」  後部座席のドアを開け、キーラが乗り込む。アキは白い手袋をはめ、運転席に座った。バックミラーの角度を確認し、キーラに言った。 「どこへ向かわれますか」 「そうね……取り敢えず、街へ行きましょう。ショップで注文したアクセサリを取りに行って、その後は適当に店を散策するわ」 「畏まりました。では、発車しますのでご注意下さい」  白い跳ね馬が出発する。玄関から敷地外に出るだけでも、五百メートルは進まないと出口がないこのシベリウス家の屋敷は、フィンランドでも有数の大家だ。  キーラは窓の外を眺めながら、足を組んで座っている。しかし、それもすぐに飽きたのか、アキに話しかける。 「退屈だわ。貴方って本当に無口よね、何か話しなさいよ」 「仕事でもプライベートでも、自分はあまり多弁ではありませんが」 「主が退屈だって言ってるのよ」 「では、音楽でもおかけしましょうか」 「イ、ヤ。ホント、使えないヤツね。貴方といても楽しくないわ」  そう言って、金の前髪をはらう。キーラの不機嫌度数は秒単位で上昇していく。 「大体ね、貴方は機械的すぎるのよ。人間性が欠けてるわ。それに輪を掛けて無口だし。私にも一言二言でしか受け答えしないし……今から、私の一言には三つの言葉で返しなさい」  そんなキーラの言葉にも、アキはまったく動じず安全運転を心掛け、街へとフェラーリを走らせている。 「ちょっと、聞いてるの!?」 「はい」 「貴方ねぇ……っ! 七ヶ月くらい、貴方を接してきたけど……未だにアキ=アクセリ・パルムグレンというのがどんな人間が掴めないわ」 「お嬢様は、自分たち使用人のことを人間だと思わなくて結構かと存じ上げております。自分で宜しければ、何なりとお申し付け下さい」 「……そういうところが、人間らしくないって言ってるのよ」  不満そうにしながらも、今までの執事はキーラのわがままにほとほと呆れていたが、もっとわがままでも良いと言ったアキに内心、驚いていた。  ここまで従順だと、少しは叱ってくれてもいい、という気持ちが芽生えてこなくもないキーラだった。  やはり、この若さで執事長を任されただけあって、使用人として非の打ち所が無い。 「アクセサリを受け取る店というのは、この先の角にある宝石店でしょうか」 「そうよ。もし良いのがあれば、何か買うかもしれないわね」 「畏まりました」  駐車場にフェラーリを止め、キーラと共に店の中へ。  店員から商品を受け取り、その店でキーラが物色をしている間、アキは客の女性に声を掛けられ続けていた。 「貴方、カッコ良いわねぇ。おねーさんと一緒に遊ばない?」 「すみません、勤務中です」 「へ? 仕事――って、この店の店員さん?」 「いえ。お嬢様の運転手兼、警備です」 「ふぅん? あらそう。じゃ、また次の機会にでもお願いするわ」  そう言って手を振りながら、店の外へ出て行く客。  そんなやり取りの後、キーラは物色をやめてアキを睨んでいた。 「なによあの女、知り合いなの?」 「いえ。今日初めて、声を掛けられましたが」 「ふーん。逆ナンパってやつか……アンタも、もっとはっきり断りなさいよ。あんなんじゃ、いつか押し切られるわよ」 「勤務中にお嬢様から離れ、他の女性と行くなど有り得ません」 「…………。……まぁ、貴方がいなくても別にいいんだけど」  その後も、アキへの逆ナンパは絶えることが無かった。その度にキーラの不機嫌度数は上がっていく。  痺れを切らしたキーラは、そそくさとその店を後にした。 「まったく、貴方といると疲れるわ! なんなのよ、私が傍にいるって分かってるのに声を掛けるなんて!」 「申し訳御座いません」 「大体、貴方が離れて私とは他人ですみたいにしてるのが悪いのよ!」  確かにアキは、アクセサリを眺めているキーラの邪魔にならないよう、多少離れたところにいた。  それもあって、アキを一人だと思った女性達がこぞって声を掛けていたんだろう。 「これから服とか見たいし、街を散策するけど――貴方、私と手をつないで歩くのよ。そうすれば声を掛けてくる女も減るでしょう」 「畏まりました」 「…………。」  また、キーラの不機嫌度数が上がる。 「私のことを子供だと思って……」 「お嬢様、この辺りで宜しいでしょうか」 「……いいわよこのヘンで! さっさと行くわよ、アキ!」 「畏まりました」  近くの駐車場にアウディを止めて、二人は車を出た。 「ん。」  キーラは不機嫌顔で右手を差し出す。それにアキは腕を差し出し、紳士が女性をエスコートする時の体勢を取った。 「……なに、この腕は」 「自分と手を組めと、お嬢様が」 「手を組むんじゃないの! 手をつなぐのよ!」  そう言って、アキの手をひったくるようにしてつないだ。 「なんで手袋なんてしてるのよ……」 「ハンドルを扱いやすいので」 「外しなさい。まったく……分かったら、右手がお留守なのをなんとかして」 「畏まりました。では、失礼します」  アキは手袋を外し、ポケットに入れてキーラの右手を優しく取った。 「…………。」  キーラはそれを握り返すと、やっと二人は歩き始めた。           □ 「ねぇねぇ、そんなお子ちゃま放っておいて、あたしと一緒に遊ばない?」 「すみません、勤務中です」  果たして、キーラと手をつないでいても逆ナンパが絶えることは無かった。  しかもお子ちゃま扱いされ、今にも爆発しそうなキーラはしかし、次のアキの一言で機嫌を完全に取り戻す。 「いーじゃない。貴方も、そんなわがままそうな子供のお守りするのも疲れるでしょ?」 「これ以上、お嬢様を侮辱なさらぬよう、お願いします」  珍しくアキが語調を強めて言う。女性は無駄だと悟ったのか、このロリコン野郎、と言い捨てて去っていった。 「気分を悪くさせて申し訳御座いません」 「べ、別に……。いいから、行くわよ」 「畏まりました」  小声でぼそぼそと、貴方もちゃんと断れるじゃない……、と呟いたが、それは雑踏でかき消えた。  その後は、声を掛けてくる女性も七、八人はいたが、アキがやんわりと断ってもしつこく誘ってくるような女性ではなかった。  キーラも、先ほどのアキのセリフもあって、もう逆ナンパのことで不機嫌になることはなかった。  今は、某高級ブランド店で、服を見ている。 「これはどう?」 「お似合いで御座います」 「じゃあこれは?」 「そちらもお似合いかと」 「こっちのはどうかしら?」 「大変お似合いです」 「……貴方ねぇ。さっきから似合ってるしか言ってないじゃない!」  アキに意見を求める時点で、キーラは間違えているのだが。  またも機嫌を損ねたキーラだったが、そんなキーラにアキが言う。 「いえ。お嬢様はどのような服をお召しになっても、お似合いで御座いますので」 「…………。」 「こちら、全てお買い上げですか?」 「……うん、買う」 「畏まりました」  アキは店員を呼び、全てカードで支払って店を出た。  商品は自宅輸送にしたので、結局荷物持ちはあまり意味をなさなかった。 「……貴方、シベリウスに来る前はどこで働いてたの?」 「実家で五年の下積みをし、グロンホルム家で二年働き、グロンホルム家のご頭首様にシベリウスへの推薦を受け、三ヶ月でシベリウスの執事長へ抜擢されました」 「じゃあ……十四から執事やってたの、貴方!?」 「はい、そうなります。パルムグレン家は代々、使用人の家柄ですので。執事と固定はされていませんが」 「そ、そうなの……」  そんな早くから執事をやっていれば、慣れているはずだ。いつものアキの冷静沈着さは、幼少期から培ってきたものだったのだ。  初めて聞くアキ自身の話に、もっとアキのことを知りたいとキーラは思った。  しかし、そんな時でも、アキは油断というものを知らなかった。 「じゃあ、グロンホルムとシベリウスは――」 「――ッ!」  背後から忍び寄り、アキへ鈍器による一撃を放とうとしたスーツ姿の男は、アキの足払いであっけなく尻餅をついた。 「え、なっ、何!?」 「お下がり下さい、お嬢様」  こんな、人通りの多い天下の往来で襲撃してくる大胆さに呆れつつ、場所を変えるべくキーラの手を引いて路地裏へ入る。  男は立ち上がって路地裏へと追ってきた。 「シベリウス家のキーラ=エミール嬢だな? 悪いが、大人しくオレに捕まってくれねーかな」 「……私を連れて行って、どうするつもり?」 「キミには関係無いことだ。関係あるのは、政治家であるキミのお父さんさ」  アキはキーラを背で守りつつ、男との距離を拡げる。  男はさっき殴りかかってきたハンマーのようなものをジャケットの中に仕舞うと、今度は幅広のサバイバルナイフを取り出した。 「お前は、キーラ=エミールの執事の、アキ=アクセリだな」 「答える必要はありません。貴方の目的は分かりましたが、言う通りにする気は毛頭ありませんので」 「ふん。ハナっから素直に聞いてくれるとは思ってねぇ――よっ!」  男は走り出して一気に距離を詰めると、アキに切りかかってくる。 「フッ――!」  しゃがんで躱すと、そのまま片手を地面に付き、ブレイクダンスのように低空で足を振り回して男の軸足を刈った。 「う、おっ!」  軸足を刈られた男は、あっけなくその場に倒れこむ。アキは男の手首を蹴って、ナイフを弾き飛ばした。 「……カポエラなんて珍しいモン使いやがって」 「立ち去って下さい」 「ふんっ!」  男は袖から投擲用のナイフを出して、それをキーラへ投げつけた。 「お嬢様――ッ!」 「きゃっ!」  アキはキーラを押し倒すようにして、投げられたナイフをよける。  素早くキーラを立たせて、安否を確認した後、キーラを隠すように背を向けて言う。 「離れないで下さい」 「ぇ、あ、ぅ、うん……」  ナイフより貴方の方が危ないのよ……。キーラはその大きな背中を見詰めながら、そんなことを思った。 「……貴方はお嬢様に牙を剥きました。その罪は、とても大きいものです」  アキは無表情で倒れている男の横っ腹を蹴り上げると、そのまま踵を左胸――心臓の位置に叩き付けた。 「グ、ガ――ハッ! てっ、てめぇ……もうキレたぞオレぁ、もう何するか自分でも分からねぇ」 「貴方が何をしようと、どうでもいいことでしょう。それに――」  一瞬で立ち上がった男との距離を詰め、懐に飛び込んだかと思うと、次の瞬間にはアキのハイキックが男の喉笛にキマっていた。 「……奇遇だったな。俺もそろそろ、キレそうだったんだ」  男はうずくまって動かなくなった。  アキは後ろで小さく震えているキーラに向き直ると、深く頭を下げた。 「申し訳御座いません、お嬢様。つけられているのに気付かなかった自分の落ち度です」 「あ、アキ……」 「もう、大丈夫ですお嬢様」  今にも泣き出しそうなキーラを抱き締めて背中をさすっていたら、安心したのかキーラは本当に泣き出してしまった。  泣き止むまで抱き合っていた二人だったが、やがてアキがキーラを離す。 「あ……」 「複数犯の可能性が無いとは限りませんので、今日のところはもう帰宅した方が宜しいかと。一旦、車に戻りましょう」 「……わ、分かったわ」  まだ動かない男は放置して、白馬を止めてある駐車場へと戻った二人は、どちらともなく手をつないでいた。           □  車の前に着き、アキがフェラーリのドアを開けても、キーラは何故か乗り込もうとしなかった。 「お嬢様、どうぞお乗りになって下さい」 「…………。」  キーラはアキの方へ向き直ると、ぼそぼそと小声で言った。 「助けてくれて、ありがと」 「いえ。ボディガードも兼任ですので」 「……お礼、とか、したいんだけど」 「見返り目的で助けた訳ではありませんので」 「…………。」  キーラが下手に出ても、結局アキはアキのままだった。それが何故か嬉しくて、つい意地になってしまう。 「なんでもいいのよ。望むものを与えるわ」 「自分は、今の生活に満足してます」 「何か一つくらいあるでしょ?」 「いえ」 「あー、もうっ! なんでもいいから欲しいものを言いなさい! でないとクビにするからねっ!」 「それは困ります」  アキは口に手を当てて考えるが、自分の欲しいものなど思いつかなかった。  なので、アキはキーラに近付いてこう言った。 「では、貴方に対する敬意と忠誠を示させて下さい」  そのままキーラの前に片膝を付いて跪くと、右腕を取って手の甲に触れるか触れないか程度の口付けをした。 「――ッ!? な、ななな、なっ何を――っ!?」  これでもかと言うくらい動揺しているキーラを見据えて、アキは相変わらずの無表情で言った。 「我々執事は、主にかしずくのが仕事です。どうか、謝礼などを強要することは今後なさらぬよう、お願いします」  手を離して立ち上がると、ドアを開けなおしてキーラを乗り込むように促した。 「……あ、後で後悔するわよ」 「そうかもしれません。では、お屋敷へ戻りましょう」  運転席に座ると、アキは白い手袋をはめながらそう言った。  帰り道、二人は終始無言だったが、キーラが退屈だと言い出すことは無いくらい、不思議な幸福感が車内に広がっていた。 To Be Continued...?